未来を生きていく力

今、日本を含め、世界中で予測困難な事態が多く起きています。AIやITの急速な発展、新型コロナウイルス、自然災害、戦争、等、数年前の私たちには想像もできないようなことがひしめいています。そんなVUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)が急速に進んでいる時代を生きていく子どもたちに求められていく力とはどういったものなのでしょうか?

そのヒントとしてOECD(経済開発協力機構)の「Education 2030」というプロジェクトの中で、
・新たな価値を創造する力
・対立やジレンマを克服する力
・責任ある行動をとる力
という3つの力を挙げています。

「Education 2030」 とは簡単に言うと、2030 年には成人として社会に出ていく子どもたちが、不確かなこれからの未来を切り開いていくためにどのような力が必要で、身に着けるためにはどのような教育が必要となっていくのかを示しているものです。これは日本に限った話ではなく、世界が視ている方向性です。

このような力はいつ頃からついてくるのでしょうか?つけるための教育とはいつごろから行っていくのでしょうか?

学校というものが始まる小学校や中学校?いやいや、そんな小さいうちにつく力じゃないから、高校や大学、短大、専門学校でしょ!

様々な考え方があると思いますが、皆さんに見ていただきたい資料を紹介します。

これはスキャモンの発達・発育曲線という20歳を基準とした時の身体組織の発達について図式化したものです。

この図の中で先ほど挙げた力に関するものは「神経系型」となります。これは神経組織の発育、つまり脳や脊髄、感覚器等にあたるものです。特に心や気持ちといった人を人たらしめる前頭葉(脳を構成する中の一部)が大きく関わってきます。

この図を見てわかる通り、神経系の発達はおよそ15,6歳で完成されますが、保育園でいう年長で約80%、年少になる前の3歳で約60%が出来上がることがわかります。また、伸び方を見ると生後間もなくから急激に伸び、幼児期を迎えるころには緩やかになります。

つまり、20歳のころの脳の約半分以上は乳児期に出来上がり、小学校に上がるころにはその8割方が完成しているということです。小学校や中学校に入ってからでは遅すぎるということではありませんが、乳幼児期の育ちの重要性がとても感じられます。

もう一方、こちらの資料。

これは2016年に行われた社会保障審議会児童部会保育専門委員会でも使われた脳の感受性に関する資料の図になります。簡単に訳すとLanguageは言葉、numbersは数量、peer social skillsは社会性に関わる能力(同僚性)、emotional controlは感情のコントロール、といったことになるでしょうか。

人の心に通ずる部分で見ると peer social skills は0歳~3歳にかけて飛躍的に伸び、徐々に成長しにくくなっていき、emotional control は0歳~2歳くらいにかけて急激に伸びを見せて、その後は2歳~2歳半くらいまでは比較的高い成長水準がありますが、一気に成長しにくくなっていくということがわかります。

先ほどのスキャモンの発達・発育曲線と同じように、心に関する成長・成熟は就学前の影響が大きく、とりわけ0~2歳児の乳児期と呼ばれる時期にどのような経験をしているのかが重要だということがわかります。幼児期やそれ以降の学校などでの成長がない、大切でないということではなく、乳児期に比べると伸びにくくなってくるということを伝えたいと思います。

こうしたことからも、当園では乳児期から子ども同士が子どもたちなりに関わり合うことのできる環境を作り、関わり合うからこそ得られる様々な葛藤や困難から、保育者の支援や援助を受けながら自分なりに立ち直ったり、その感情に気づく経験を通して心の成長の援助をしています。大人が関わりすぎると子どもは困難にぶつかる経験が減ってしまうことが多くなってしまうので、子ども同士の関りや子どもと環境をつなぐ橋渡しの役割が望ましいのかなと思います。

長くなってしまいましたが、どの時期の教育も非常に大切です。その中でも大切な時期の子ども達を預かっていることを園としても自覚しながら園に関わる全ての方たちと子どもの育ちに寄与していきたいと思います。